Jetson Orin Nano vs Raspberry Pi 5 徹底比較
Jetson Orin NanoとRaspberry Pi 5、どちらを選ぶべきか迷っている人は多いと思います。この記事では実機を使って両者を比較し、用途別にどちらが適しているかを具体的に解説します。
この記事でわかること
スペック比較
まず基本スペックを整理します。
| 項目 | Jetson Orin Nano Super 8GB | Raspberry Pi 5 (8GB) |
|—|—|—|
| CPU | Arm Cortex-A78AE 6コア 1.5GHz | Arm Cortex-A76 4コア 2.4GHz |
| GPU | 1024コア Ampere GPU + 32 Tensor | VideoCore VII |
| AI性能 | 67 TOPS | 非公表(約1 TOPS相当) |
| RAM | 8GB LPDDR5 | 8GB LPDDR4X |
| ストレージ | NVMe / microSD | microSD / NVMe(要HAT) |
| 消費電力 | 7〜25W | 最大10W前後 |
| 価格(目安) | 約35,000円(249ドルキット) | 約12,000〜15,000円 |
Jetson Orin Nano Super NVIDIA Jetson Orin Nano 開発者キット(Amazon) はAIアクセラレータ(DLA)を内蔵しており、Raspberry Pi 5には存在しないNVIDIA独自のAI処理基盤を持っています。
AI・機械学習処理の実力差
これが最も重要な比較ポイントです。実際にYOLOv8を使った物体検出をCPU推論で比較してみました。
Raspberry Pi 5でYOLOv8nを動かした場合、CPU推論でおよそ5〜8FPSが限界です。カクカクした映像になりますし、CPUが熱を持って処理が落ちることもあります。
一方、Jetson Orin Nano SuperではGPUとTensorRTを組み合わせることで、同じYOLOv8nが60FPS以上で動作します。この差は圧倒的です。LLM推論ではLFM2.5-350MでJetsonが3128 tok/sに対しPi 5は254 tok/sと12倍以上の差が出ます。
実際にJetson Orin Nano Superでリアルタイム推論を試す場合、まず以下のようにJetPackが提供するCUDAライブラリが利用できます。
# CUDAのバージョン確認
nvcc --version
# GPU使用状況の確認
sudo jtop
jtopはJetson専用の監視ツールで、GPU・CPU・メモリの使用状況をリアルタイムで確認できます。インストールされていない場合は以下で追加できます。
sudo pip3 install jetson-stats
TensorRTによる最適化をかければ、さらに高速化が可能です。Raspberry Pi 5にはこのような専用AIアクセラレーション経路がないため、重い推論タスクになるほど差が開きます。Jetsonでは8GB VRAMの制限でGemma系大規模モデルが起動失敗する既知の問題があります。
汎用途での使いやすさ
汎用的な用途——Webサーバー、スクレイピング、軽量なIoTゲートウェイ、PythonスクリプトによるGPIOの制御——では、Raspberry Pi 5の方が圧倒的に使いやすいと感じています。
理由はいくつかあります。
まずコミュニティの規模です。Raspberry Piは世界中に膨大なユーザーがいるため、日本語・英語問わず情報が豊富です。初心者がつまずきやすい設定手順やトラブル対応が、検索すればすぐに見つかります。
次にOSの自由度です。Raspberry Pi 5はRaspberry Pi OSはもちろん、Ubuntu、DietPi、HomeAssistantなど多様なOSを手軽に導入できます。Jetson Orin Nano SuperはNVIDIA公式のJetPack 6.xベースのUbuntuが基本であり、他OSの選択肢は限られています。
ストレージの扱いも違います。Raspberry Pi 5では microSDカード Samsung microSDXC 128GB (Endurance)(Amazon) だけで完結しますが、Jetson Orin Nano SuperでNVMe SSD Western Digital SN770 500GB NVMe(Amazon) を使う場合はキャリアボードを含めたセットアップが必要です。その分パフォーマンスは上がりますが、初期設定のハードルが少し高くなります。
消費電力・発熱の比較
長時間稼働させるケースでは消費電力と発熱が気になります。
Raspberry Pi 5はアイドル時に約2.4W程度で動作します。軽い負荷であれば小型のUSB電源アダプター Anker PowerPort III 65W(Amazon) で十分です。
Jetson Orin Nano SuperはAIタスク実行時に最大25W前後まで上昇します(7Wエコ/15Wデフォルト/25Wパフォーマンスモード選択可)。付属の電源アダプターを使わずに起動しようとすると電力不足で不安定になることがあるため、注意が必要です。
発熱についても、Jetson Orin Nano Superは高負荷時にヒートシンクとファンなしでは厳しい場面がありました。冷却ファン Noctua NF-A4x10 5V PWMファン(Amazon) を取り付けることで、長時間の推論処理でも安定した動作が得られます。
温度を確認するコマンドは以下です。
# CPU・GPU温度の確認
cat /sys/devices/virtual/thermal/thermal_zone*/temp
数値はミリ度単位(1000 = 1度)で表示されます。
カメラ連携・映像処理の比較
カメラを使った映像処理はJetson Orin Nano Superが圧倒的に得意とする分野です。
Jetson Orin Nano SuperはCSIカメラ Raspberry Pi Camera Module V2(Amazon) への対応が充実しており、GStreamerやJetson Multimediaライブラリを使って映像ストリームを直接GPU/DLAで処理できます。
# GStreamerでカメラ映像を確認する例(Jetson向け)
gst-launch-1.0 nvarguscamerasrc ! \
nvvidconv ! \
xvimagesink
Raspberry Pi 5もカメラモジュールV3に対応していますが、リアルタイムの映像AI処理を加えた場合、CPUがボトルネックになります。
用途別おすすめ
実際に両方を使ってみた感想をもとに、用途別の選択指針をまとめます。
Jetson Orin Nano Superがおすすめな場面は以下のとおりです。
Raspberry Pi 5がおすすめな場面は以下のとおりです。
まとめ
Jetson Orin Nano SuperとRaspberry Pi 5はそれぞれ異なる用途のために作られたボードコンピュータです。「どちらが優れているか」ではなく、「何をやりたいか」で選ぶのが正解です。
AIや機械学習の推論を本格的にエッジで動かしたいならJetson Orin Nano Superを選んでください。実際に触ってみると、GPUとTensorRTが生み出す処理速度の差は体感できるレベルで違います。
一方、汎用的なLinuxボードとして手軽に使い始めたいならRaspberry Pi 5は依然として最有力の選択肢です。コミュニティの充実度と価格のバランスは優秀です。
自分がどちらのユースケースに近いかを確認してから購入を判断すると、後悔が少なくなります。
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Jetson Orin Nano Superを選んだら、まず初期設定から始めましょう。以下の記事で詳しく解説しています。

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